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 【[雑学]アフリカ・中近東

世界遺産雑学64--特殊な世界遺産Vol.8--
2000.12.30
 
世界遺産雑学64

特殊な世界遺産Vol.8
「杉の木」

--誰もがほしがった杉の木--

ここはオリエント。
数々の国がここの覇権を求めるため権力を誇示したのである。
こんな場所にオリエント文化で欠かせないものがあった
「杉の木」である。

カディーシャ渓谷(聖なる谷)と神の杉の森(ホルシュ・アルツ・エルラブ)  レバノン

トルコとエジプトの中間にあるレバノン
ここは古代より戦争に明け暮れる地域であった。
オリエントの大国
エジプト、ヒッタイト、バビロニア、アッシリア
それぞれの国のちょうど中間にある国であったため。
戦略上、オリエントの覇権を得るためには必要不可欠の場所であった。

この重要な場所にオリエント文明を支える重要なものが自生していた。
それはエジプト・クフ王やギリシャのアレクサンドロス大王などが重宝していたもの
「レバノン杉」
である。
レバノン杉は腐らない木であり、独特の香りを持っていた。
これにより、木が無いエジプトなどがこぞって手に入れようとしたのである。
現にピラミッドの下から出てきた太陽の船、ツタンカーメンの墓からでた椅子などすべてレバノン杉で出来ている。
それだけ、このレバノン杉はこの地方の文明を支える重要なものであった。

このため、レバノン杉が伐採されるようになる。
それは紀元前3000年頃から始まったといわれる。
各地で集められた労働者は木を伐採、その木を台車にくくりつけ港まで運んだのである。
そしてビブロス、ティスルなどの海岸の町まで運ばれた。
こうして、それぞれの都市は木材の輸出により巨万の富を手に入れるようになる。

しかし、このレバノン杉の伐採は年を重ねるほどに進行してしまう。
中世の時はこの地の開墾のために伐採。
近代の時は鉄道の枕木を作るために伐採。
このため、レバノンにはほとんど杉が残らなくなってしまった。
かつては星の数ほどのレバノン杉で囲まれていた山脈が現在では裸状態で残るのみ。
レバノン国内でも1200本をかぞれるぐらいに乱獲されてしまったのである。
そしてすべてが保存の対象となった。
そのうちの375本が世界遺産カディーシャ渓谷「神の杉の森」でみる事が出来る。
ここには乱獲最後の場所であり樹齢3000年以上の木が2本残る。

ではなぜこの神の杉の森にレバノン杉が残っているのか。
それは険しい渓谷であったため。
標高2000m以上の高地にあり、人が誰も寄り付かない場所であったため数千年の歳月も森が守られているのである。
また、こんな奥地のために7世紀修道士たちの修行の場所にもなっている。
東方諸教会の修道士たちが断崖に穴を掘り、修道院としたのである。
それは、異端と呼ばれ逃げてきた者たちの最後の砦でもあった。


カディーシャ渓谷に残る神の杉の森と修道院は歴史に多大な影響を与えた杉の保全とそこに根付いた修道院を保護するため1998年世界遺産に登録された。
古代オリエントの文化を知る重要な文化地でもあったのである。






前回の雑学と繋がっている世界遺産です。
杉の世界遺産。
でも、この杉だけで文明の一端を担ったことがすばらしい事だと思います。
レバノン杉、歴史を語るうえで重要なものであります。
ぜひ、杉をみて歴史を紐解いてみたい衝動に駆られました。