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 【[雑学]ヨーロッパ

世界遺産雑学119--特殊な世界遺産Vol.21--
2000.12.30
 
世界遺産雑学119

特殊な世界遺産Vol.21
「椰子園」

--新天地に築いた郷土の風景--


彼らは領土拡大のため戦争を繰り返した
そしてとうとう領土を拡大することに成功する
その後、彼らはこの新天地にある風景を作り上げる。
それこそ「椰子園」


エルチェの椰子園  スペイン

スペイン東部、バレンシア地方。
ここは地中海を目の前にしながらも乾燥した台地が続く。
しかし、ちょうど日本と同じぐらいの緯度を持ち、四季が存在する過ごしやすい場所。
こんな気候に抱かれた場所にエルチェの街がある。
この街には20000本の椰子が並び街の風景を独特なものへと変えている街。
椰子の高さは30m以上。
樹齢は300年以上生き抜いているものも存在する。
こんな椰子園が築かれたのは侵略者達の功績。
彼らはこの街に故郷を見たのである。

7世紀初め。
スペインのイベリア半島に大きな出来事が待っていた。
イスラム教徒の侵略である。
彼らは北アフリカからジブラルタル海峡を渡りイベリア半島に行き着いたのであった。
当時のイスラム世界はウマイヤ朝イスラーム帝国。
彼らは領土を必死に拡大していったのであった。
こうして北アフリカ、アラブを次々と自分の領土としていく。
そして彼らが次に目をつけたのがイベリア半島であった。
ウマイヤ朝は怒涛の勢いでイベリア半島にある国々をことごとくつぶしていく。
その後ピレネー山脈を越え、フランス南部まで侵略していったのである。
こうしてイベリア半島は11世紀から始まる15世紀に終了するイベリア半島のレコンキスタ(国土回復運動)が完了するまでの800年間イスラム世界を形成してきたのであった。

そんなイスラム教支配の中、エルチェの街ではある計画が持ち上がる。
椰子園の建設である。
このエルチェの街では乾燥した台地が存在した。
その乾燥した台地から緑を作り、さらにそこに食物を作らなければならなかったのである。
そこで考えられたのが椰子園であった。
もともと、イスラムでは椰子園というものがよく作られていた。
それはイスラムの住んでいる場所が砂漠という何もない土地柄であったためである。
椰子とは少量の水でも成長し、自身に水をため込むという性質をもっていた。
このため乾燥したところにはうってつけのものであったのである。

また、この椰子園の建設にはもう一つの思惑があった。
それこそ地元の風景の創設である。
彼らイスラム教徒は侵略者であった。
このため、キリスト教のあった新天地で暮すという生活が待っていた。
そこで、この新天地に地元の椰子園をそっくりそのまま再現することが考えられたのである。
彼らがこの地でずっと暮らしていけるようにと。

こうして、エルチェの街に椰子園が作られた。
それは北アフリカの椰子園に見られる典型的な例であるが、高度な灌漑システムが採用されている。
植えられた椰子の数、2万本。
広大な土地に椰子の森が次々と生まれていった。
中には一つの椰子から7本に枝分かれをしている「皇帝の椰子」も存在する。
年間300mmしか雨が降らないこの地を緑の世界へと変えた瞬間であった。

その後イベリア半島でのレコンキスタが完了し、イスラム教徒が追い出されるとキリスト教徒は椰子園の中に小さな教会をたてた。
そして、キリスト教は聖母マリアの生から死までを描いた劇をここで上映するようになる。
それも1年に1度。
500年過ぎ去った今でも毎年欠かさず行われている。
この文化こそ、「エルチェの神秘劇」
女性が演じることを禁止し、必ず声変わりする前の少年が主役を務めるのである。
500年もの歳月が過ぎても変わらない文化としてエルチェの神秘劇は2000年にもう一つの世界遺産「世界無形遺産」(雑学50参照)に登録されているのである。
このエルチェには世界遺産と世界無形遺産が存在する新しい複合遺産なのである。


エルチェに残る椰子園はヨーロッパに残る農園として唯一のアラブの灌漑システムを使っているものとして、またここにはイスラムの高度な土地利用がなされた場所として2000年世界遺産に登録された。
イスラム文化の世界遺産、キリスト文化の世界無形遺産、二つが融合したエルチェはまさしく奇跡なのである。



ここは特殊中の特殊。
椰子園もさることながら、世界遺産と世界無形遺産が同じ場所にあるのはほんの数例しかないのです。
韓国の宗廟、モロッコのマラケシュなど。
しかし、ほとんどは同じ文化のものが登録されているのです。
イスラム教徒とキリスト教。
異なる文化の世界遺産と世界無形遺産が同じ場所に存在するのはここだけです。