TOP > ひさほゆうのリアルタイム世界遺産旅行ブログ

カテゴリー
ひさほゆうが独自の視点で世界遺産を解説!
最新コメント

 【[雑学]ヨーロッパ

世界遺産雑学123--特殊な世界遺産Vol.22 --
2000.12.30
 
世界遺産雑学123

特殊な世界遺産Vol.22
「印刷博物館」

--ヨーロッパの人々の考えに変革をもたらした場所--

ヨーロッパに巻き起こった宗教改革
カトリックの教えの間違いを訴えたルターから始まる
しかし、その革命にはなくてはならないものがあった。
みんなが読める「聖書」


プランタン=モレトゥスの家屋・工場・博物館複合体  ベルギー

ベルギー・アントワープ州、アントワープ。
この街には一つの博物館がある。
その名も「印刷博物館」
しかし、普通の印刷博物館ではない。
当時の最高水準の印刷技術を持っていた。
さらにこの工場は300年にわたり存続したのである。
驚くべきことはこれだけでない。
この工場からはヨーロッパの人々の思想を変えるだけの本を出版した。
それこそ宗教革命の大きな立役者となった瞬間であった。

この地に印刷工場が建ったのは1555年。
創立者クリストファー・プランタンがパリで製本術を、カーンで印刷技術を学び、ベルギーのこの地に印刷所を建てたことにはじまる。
当時の印刷は活版印刷。
木の枠に鉄の文字を組み込んで、インクをその文字に塗り、紙に転写するという技術。
しかも、ここには当時の最高技術を結集した装置があった。
が、といっても木の枠に文字を入れるのは手作業。
どうしても誤字脱字が多かったのである。
それを解決するために会社の中庭に印刷された書物を掲げ、誤字脱字を発見した人に賞金を出す徹底のしようだった。
こうして創立以来この場所ではたくさんの書物が印刷され、ヨーロッパ中に広まっていった。
彼がこの工場で在職した間、2450種類もの本が出荷されたのである。

この多種多様な出版物の中で一冊の本がこのプランタンの印刷所から発行されることになる。
それはヨーロッパの世界を一変するに大きな影響を与えた一冊。
「ビブリア・ポリグロッタ」
日本語に訳すと多言語聖書である。
どうしてこの一冊の本がヨーロッパを変えることになったのか。
それはキリスト教の歴史を知らなければならない。

時は15世紀。
ヨーロッパはカトリックの世界であった。
すべての権力は教皇に集まり、お金集めのためなら贖罪符を売り罪をお金で許したのである。
こんな世界に疑問に思ったのがマルティン・ルター。
彼は聖書に書かれている本当の意味をヴィッテンベルクの聖堂に張り付けたのであった。(雑学44参照)
しかし、それまでの時代なぜヨーロッパはこんな腐敗したカトリックを信じたのか。
それは聖書がラテン語に書かれていたことに由来する。
まだ印刷技術のない時代、聖書は人の手で書く写本によって後世まで伝達されていた。
それはすべてラテン語。
キリストの時代に中東で使われている言語であった。
もちろん、キリスト教の司教などはラテン語が読めたが、市民はラテン語までは読めなかった。
このため、キリストの教えを司教から聞いて覚えたのである。
しかし、このとき司教が間違った教えを説いたらどうなるか。
市民はそっくりそのままそれをキリストの言葉と信じたのである。

このため、マルティン・ルターはまず、ラテン語とヨーロッパの言語に翻訳していった。
市民が聖書をそのまま読めるようにしたのである。
しかし、この行いもすぐには宗教改革ができなかった。
それもそのはず、当時は本を大量に製本する技術がなかったのである。
そしてルターの死後、このプランタンの印刷所に依頼した。
こうして、ビブリア・ポリグロッタ(多言語聖書)が製本されたのである。
この多言語聖書は瞬く間にヨーロッパ中に出荷されていく。
そして市民は聖書の本当の意味を知るのであった。
これにより、ヨーロッパは宗教改革の波が最高潮に達する。
北にあるヨーロッパの国がプロテスタントに変わった瞬間であった。

しかし、プランタンの製本所はこれだけではなかった。
創業者プランタンから第23代モレトゥスまでの300年間もの間、印刷業界のトップに君臨し続けたのである。
また、印刷の技術や、活版印刷の変革の証がこの場所には残っている。
現在、この場所はプランタン=モレトゥスの博物館として存在している。
印刷の歴史、活版印刷の機械など文化をリードしたこの製本所は観光客に公開されているのである。


プランタン=モレトゥスの家屋・工場・博物館複合体は印刷業界のトップに君臨し続けた証として2005年世界遺産に登録された。
世界初の単独の博物館として世界遺産となったこの場所はヨーロッパの宗教をいっぺんさせたのである。




ここ、知っている人は知っています。
それほど有名だったんです。
印刷の世界遺産。
それだけここは印刷として世界を変えた場所。
かなり特殊ですが、行ってみる価値はあります。