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 【[雑学]ヨーロッパ

世界遺産雑学129--特殊な世界遺産Vol.24--
2000.12.30
 
世界遺産雑学129

特殊な世界遺産Vol.24
「墓地」

--生と死を描いた場所--

そこは森の中
この地に住むものにとって森は心の拠り所
木漏れ日が彩る場所にそれは眠る
人々の生きた証が


スコーグスシュルコゴーデンの森の墓地  スウェーデン

北欧、スウェーデン。
寒さ凍てつく大地に存在する首都、ストックホルム。
人口約76万人の街。
この市街にある墓地こそスコーグスシュルコゴーデンの森の墓地である。
ここにはスウェーデンの心の真髄が描かれた。
死という概念を象徴するものである。

20世紀前半、スウェーデンは近代化の波が押し寄せていた。
人々は近代化により昔の穏やかな時を忘れるように働いたのである。
そんな中、ストックホルムである計画が持ち上がる。
「墓地」の建設である。
当時ストックホルムは慢性的な墓地不足であった。
このため、これを解消するために市がストックホルム南部の敷地に墓地を造ることを企画したのである。
この時、市はこの墓地を国際コンペにかける。
こうして世界中の建設家が我こそはといろいろなアイディアの墓地をストックホルムに持ち込んだ。
それは従来の墓地から新たなアイディアの墓地など様々なものであった。
そんな中、二人の共同作品に注目が集まる。
スウェーデン建築家「エリック・グンナル・アスプルンド」と「シーグド・レーヴェレンツ」の共同作品
森の墓地である。
彼らはスウェーデンの人々の心に注目した。
スウェーデンという場所のほとんどが森林によって形成されている。
このため、スウェーデンの人々の心には常に森林とともに生きた歴史があった。
「人が死んだら森林に帰る」
スウェーデンの人々に残る心をこの墓地によって表現したのであった。
そしてこの計画が採用されるのである。

こうして1917年に建設が始まる。
大小3つの礼拝堂と火葬場。
礼拝堂までの一本の道に巨大な十字架。
芝生が引かれた斜面に、小高い丘。
松林の中に整然と並べられた墓地。
そこはまるで自然と一体化した場所。
木漏れ日が躍る場所に死者が葬られているのである。

また、ここには様々な工夫がなされてあった。
一つ目は3つの礼拝堂ではそれぞれの葬儀の参列者が顔を合わせることのないように、別々のルートで進むようになっている。
悲しさを増長させることのない配慮である。
二つ目はキリスト教、ユダヤ教、イスラム教ありとあらゆる宗教の人が一堂に埋葬されている。
人々が皆平等に森へ帰るための配慮である。
三つ目は完全に森へ帰りたい人のために小高い丘に築かれた散骨する場所。
墓に入るのではなく、そのまま自然に帰るための配慮である。
こうして二人が生と死を描いた墓地は築かれた。
今ここには人種関係なく12万人が眠る。
自然と一体になったこの場所に。

その後、森の墓地は数々の増築を重ねるがその際にアスプルンドのみが建築に携わるようになる。
こうして彼は建設後25年間の歳月をこの場所につぎ込んだのである。
しかし、彼には不幸な出来事が待っていた。
息子の死である。
彼は自分の息子のために森の礼拝堂を建てた。
そこはスウェーデンの田舎のたたずまいをした建築。
門には息子への思いが刻まれている。
アスプルンドは55歳で亡くなるまでこの墓地の建築を続けた。
そして彼はこの場所でスウェーデン建築の礎を築いたのである。
北欧近代建築の幕開けだった。


ストックホルムに残るスコーグスシュルコゴーデンの森の墓地は北欧の死生観を現す例であり、世界中の墓地建築に影響を与えた場所として1994年世界遺産に登録された。
墓地単体で世界遺産に登録された場所は世界で唯一ここだけである。




ここ、最初テレビで見たとき感動してしまいました。
ぜひ最後にはここに埋葬されたいと。
それだけ、死という概念に挑んだ建築家の傑作があります。
自然と死の共存。
簡単なようで難しいと思います。
また、宗教関係なく埋葬されるシステム。
世界でも難しいことだと思います。
世界の平和にもつながっている場所ではないでしょうか。