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2010.09.19

 観光・見所

【コラム】世界遺産ルアンパバーン 通の歩き方② フランス時代の敷きタイル

フランス植民地時代に建った建物にはよく敷きタイルが見られます。一枚の大きさはきっち

り20×20センチ。あまり目立つものではないので見過ごしてしまいがちですが、商店やゲス

トハウスに改造された古い建物に足を踏み入れて、気の利いたデザインのタイルを発見した

ときは嬉しくなります。このタイル、焼いたもの(セラミック)ではなくて、白セメントのベースに

青、緑、橙、赤などの顔料を使って模様を入れています。デザインは幾何学的なものが多

く、ごく単純なものから何個か組み合わせて床に繰り返しのパターンを作るものまで様々で

す。年月を経たことでかえって落ち着いたしっとりとした艶を放ち、最近の製品には無い素

朴な手仕事の味わいがあります。



 

一時期大いに流行したのでしょうか、お寺の本堂の床に使用されている例が数件ありま

す。当時としては大変ハイカラだったに違いないこのタイルが、華美な装飾が歓迎されるお

寺に人気があったのはむしろ当然のことだったのかもしれません。東西の文化の融合がこん

なところで見られるのもルアンパバンの魅力です。

では、このタイルはどこで作られたのでしょうか。答えは王宮の北隣、大通りから二件目の

お土産屋さんにありました。ここの主人の先代がルアンパバン最後の作り手でした。今でも

家にはセメントを流し込む型枠などの道具の一部が残っています。だれでも店の前に立て

ば、軒下から階段にかけて様々な色と何種類ものデザインのタイルが店の間口幅いっぱい

に敷いてあることに気がつきます。

これは実用を兼ねた製品の見本展示だったのです。なんとその中には白地に黒で”瓦”の

文字が入った一枚があって、何よりも雄弁にこの家の生業を物語っています。

今見るルアンパバンの町並みが形成されつつあった20世紀の前半、当時の人たちは、

一部屋の床を仕上げるのに一種類のタイルですっきりときめたり、二、三種類のタイルを組

み合わせて凝ってみたりと出来具合を競ったに違いありません。 さらには新しいデザインを

考え出して先代に試作品を注文した建築家もいたはずです。それ以降、フランス人はこの

異国で懐かしい模様に出会っては遠い祖国に思いをはせ、ラオス人は裸足ですべすべひん

やりとした感触に感心しながらこのタイルの上を歩いたことでしょう。

残念なことに、ラオスではもうこのタイルを作れる人はいないようです。ですから、このタイル

床を修理することが難しく、機会あるごとに撤去され、だんだん見られる場所が減ってきてい

ます。本家のフランスやお隣のベトナムではまだ作られていますが、そこから取り寄せるとなる

と大変高価なものになってしまいます。

地味な存在ですが、センスと手間のいるこの仕事もルアンパバンの遺産のひとつとして、な

んとか後世に残していってほしいものです。洒落た店がここそこに出来て、町も随分変わり

ました。きれいに並べられた商品だけではなく、床にも目を向けてください。素敵なデザイン

のタイルをきっと発見できるでしょう。

【テイスト・オブ・ラオス10号掲載】

文/写真【かわぐち ゆうし】
2000年から2008年まで修復建築家としてルアンパバンの保存にたずさわる。