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2011.01.22

 過去記事&コラム集

モンのしきたり


ラオスの山に住むモン族には、ジャイと呼ばれるタブーがある。日々の暮らしの中で、「やってはいけない禁止事項」である。例えば・・・


■月を指さしてはいけない
■馬や牛の手綱を、女はまたいではいけない
■正月2日目までは、掃除をしてはいけない・・・家に呼び込んだよい精霊を掃きだしてしまうから
■正月2日目までは、外に洗濯ものを干してはいけない・・・干すと、悪霊が鶏を盗みにくるという
■正月1日目は火を吹いてはいけない・・・吹くと大風が家を吹き飛ばしてしまう
■餅を丸める時、たたいてはいけない
■サトウキビの汁から砂糖を煮る作業の時、本人以外の人が手を出してはいけない
■男女が他人の家で一緒に寝てはいけない
■寝る時に、神棚と平行に寝てはいけない・・・死人の寝る位置だから
■お母さんのおっぱいを、子ども以外が飲んではいけない・・・大人が飲むと、すぐさま雷に撃たれるなどなど・・・ここに挙げたのはほんの一部に過ぎないが、あれこれのジャイがある。
 
中には、なるほどねと理由がわかるものもあるし、どうしてなのか理由がよくわからないものもあるが、とにかく、うっかりやってしまいそうになると、モンの人たちに怒られる。「それはジャイだよ。やってはいけないよ」
 
私が一番はじめにモンの子どもたちに教えられたジャイが「月を指してはいけない」であった。「あっ、月だ」と昼の月を指さそうとしたら、子どもたちがあわてて私の腕を引き下ろして「月を指さしちゃいけないよ。ジャイだもの。耳が切れちゃうよ」と言った。本当の理由はよくわからないが、モンの村にしばらく暮らすうちに、なんだかわかるような気がしてきた。電気がない山の村では、月の光が本当に明るい。半月も近くなれば、夜、月の光で自分の影がくっきり見えるほど、月の光は煌々と夜の闇を照らしてくれる。日本ではもちろんのことヴィエンチャンでも、こんなに月の光に包まれて、月を身近に感じることはない。月は毎日、少しずつその姿と上る時間を変えながらも、確実に空に上ってくる。漆黒の山の村で、空にぽっかりと白い穴をあけて、光を注ぎだしてくれる月を見ると、「やぁ、今夜も来てくれましたね。待ってたよ」と、待ちわびた親しい友人にでも出会った気持ちになるのである。
 
モンも、ラオと同じく、月で暦をよむ。モンの正月は、米の収穫後の新月の日である。だいたい12月か1月中の新月に当たる日となるが、人々は月を見上げ、指折り数えて正月を待つ。地上の我々の闇を照らし、暦をおしえてくるありがたいお月さまを指さすなんて、とんでもない!と、モンの村にいると、思えてくるのである。

 
文/写真【やすい・きよこ】
1962年東京生まれ。国際基督教大学卒業。おはなしキャラバンの活動を経て、1985年よりタイのラオス難民キャンプで5年、ラオスで2年、子ども図書館活動に携わる。ラオスのモン族の民話・文化などの記録、また難民になったモンのその後の生活も追っている。著書『チューの夢トゥーの夢』『ラオスすてきな笑顔』『空の民の子どもたち』他。現在ノンヘートで図書館活動を展開中。


※テイスト・オブ・ラオス2007年10~12月号 No.10より転載