だだっ広い野原の中に、忽然と細長い家が建つ。人呼んで「ペンシルハウス」。間口は約 4メートルしかないのに、奥行きは10メートル以上という、まさにうなぎの寝床。それなのに、高さだけは一人前で、4階建てプラス屋上。中はハンで押した ように同じ間取りで、中央の階段をはさんで、手前と奥に部屋が一つずつ配置されている。
ベトナム最大の都市・ホーチミン市にあって、計画的に都市開発が進められているナムサイゴン地区では、こういうペンシルハウスが林立する奇観を見ることができる。
かつては、政府主導で建てられた集合住宅が庶民の住まいだった。しかし90年代、ドイモイと呼ばれる開放政策が広まり、庶民は、自分の土地を手に入れる ことが可能になる。しかし地価は高騰。特に道路に面した間口が広ければ広いほど土地は高い。そこで編み出された苦肉の策が、このペンシルハウスだった。
最初はバラバラに建っているペンシルハウスの隙間が全部埋まるとき、そこには新しい町が生まれる。
【アクセス】
Binh Chanh(ビンチャン)区Nguyen Van Linh(グエンヴァンリン)通り沿いに見ることができる。ドンコイ通りから車で20分。
(原稿・写真:朋野昭)