先週、所用があってハノイに出張した。仕事は無事に終わって、「さあ夕食後は、ホテルに戻って仕事かな」と思っていると、取引先のAさんが、
「今晩、これからオペラハウスへ、ベトナム国立交響楽団の演奏会を聞きに行くんですよ」
という。
実は小生、クラシック音楽の大ファンである。ベトナム国立交響楽団(VNSO)は、その名の通り、ベトナムを代表するオーケストラ。今晩は日本人指揮者 の本名徹次氏の指揮で、ベトナムを代表する人気女性歌手であるミー・リンと協演するという。ホーチミン市にもオーケストラはあるが、VNSOに比べると格 段に落ちる。たまっている仕事は気になるが、できるものなら、久々にレベルの高い生のオーケストラを聴いてみたい。
ところが、このコンサート前評判が高く、チケットはとっくの昔に完売とのこと。チケットを持っているAさんとオペラハウスに行き、会場の前に出ていたダ フ屋と話をしたところ、定価が25万ドンのところ、90万ドン(約5000円)だという。これでは高くて手が出ない。諦めてホテルに戻って仕事をしようか と考えていると、オレンジ色のポロシャツにチノパンという中年の ベトナム人男性が声をかけて来た。
「キミは、演奏会を聴かないのか?」
「聴きたいんだけどね、チケットがなくて」
「…そうか。じゃあ、オレが入れてやるから、ついて来なさい」
半信半疑のまま一緒に入り口に行く。彼は、私を指差しながら、チケットのもぎりをしているアオザイ女性に二言三言、声をかけると、私を手招きした。
「話はつけたから。じゃあ、演奏会を楽しんでくれたまえ」
彼に背中を押されるようにして入り口に向かうと、先ほど彼が話をしていたスタッフが、にっこり笑顔で通してくれた。ど、どうしてなんだ?
しかし会場は全席指定席。入場できても、チケットがなければ会場の中に入ることはできない。エントランスホールで思案していると、先ほどの彼が現れ、「で、これがキミのチケットだから」と手渡すや、私がお礼をいう暇もないほど、あっという間に去っていった。
私のチケットはF列の5番。前から6列目、中央やや左手の特等席である。「これを入手するのには、苦労したんですよ」というAさんより良い席だ。かくし て、私は幸運にも、素晴らしい音楽に浸る一夜を過ごすことができたのだった。彼が何者だったのか、どうして、こんな特等席のチケットがあったのか、いまだ に謎である。
ベトナムでは、日本では当たり前のことがうまく行かず、困ってしまうこともあれば、今回のように、思いもよらない幸運が降って来ることもある。
そういうわけで、今週の笑ケースは、ちょっと趣旨は異なるが、笑えるエピソードを紹介させて頂いた。写真は、演奏中に撮影したものである。中央がミー・リンで、右端が指揮者の本名徹次氏。
お後がよろしいようで…。
(担当:越野 南雄)
「今晩、これからオペラハウスへ、ベトナム国立交響楽団の演奏会を聞きに行くんですよ」
という。
実は小生、クラシック音楽の大ファンである。ベトナム国立交響楽団(VNSO)は、その名の通り、ベトナムを代表するオーケストラ。今晩は日本人指揮者 の本名徹次氏の指揮で、ベトナムを代表する人気女性歌手であるミー・リンと協演するという。ホーチミン市にもオーケストラはあるが、VNSOに比べると格 段に落ちる。たまっている仕事は気になるが、できるものなら、久々にレベルの高い生のオーケストラを聴いてみたい。
ところが、このコンサート前評判が高く、チケットはとっくの昔に完売とのこと。チケットを持っているAさんとオペラハウスに行き、会場の前に出ていたダ フ屋と話をしたところ、定価が25万ドンのところ、90万ドン(約5000円)だという。これでは高くて手が出ない。諦めてホテルに戻って仕事をしようか と考えていると、オレンジ色のポロシャツにチノパンという中年の ベトナム人男性が声をかけて来た。
「キミは、演奏会を聴かないのか?」
「聴きたいんだけどね、チケットがなくて」
「…そうか。じゃあ、オレが入れてやるから、ついて来なさい」
半信半疑のまま一緒に入り口に行く。彼は、私を指差しながら、チケットのもぎりをしているアオザイ女性に二言三言、声をかけると、私を手招きした。
「話はつけたから。じゃあ、演奏会を楽しんでくれたまえ」
彼に背中を押されるようにして入り口に向かうと、先ほど彼が話をしていたスタッフが、にっこり笑顔で通してくれた。ど、どうしてなんだ?
しかし会場は全席指定席。入場できても、チケットがなければ会場の中に入ることはできない。エントランスホールで思案していると、先ほどの彼が現れ、「で、これがキミのチケットだから」と手渡すや、私がお礼をいう暇もないほど、あっという間に去っていった。
私のチケットはF列の5番。前から6列目、中央やや左手の特等席である。「これを入手するのには、苦労したんですよ」というAさんより良い席だ。かくし て、私は幸運にも、素晴らしい音楽に浸る一夜を過ごすことができたのだった。彼が何者だったのか、どうして、こんな特等席のチケットがあったのか、いまだ に謎である。
ベトナムでは、日本では当たり前のことがうまく行かず、困ってしまうこともあれば、今回のように、思いもよらない幸運が降って来ることもある。
そういうわけで、今週の笑ケースは、ちょっと趣旨は異なるが、笑えるエピソードを紹介させて頂いた。写真は、演奏中に撮影したものである。中央がミー・リンで、右端が指揮者の本名徹次氏。
お後がよろしいようで…。
(担当:越野 南雄)