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2009.05.11

 ベトナム街角笑ケース

第9話:しつこい咳には1回30円のホームサウナ

ホーチミン市は本格的な雨季に入ったようである。雨に濡れたままバイクを走らせたのが悪かったのか、風邪を引いてしまった。これがなかなかしつこく、日本から持って来た風邪薬を飲んでもなかなか治らない。熱はないのだが、咳が止まらないという状態が3日も続いている。

昨晩のことである。
「こういうときは、これが効きますよ」

小生が住んでいるミニホテルの親父が、お弁当箱ほどの新聞紙の包みを持って来た。そこからは、プーンと漢方薬特有の臭いが立ち上っている。

「これはThuoc xong cam(トゥックソンカム)というものでね、ダンナの咳なんか、これを1回やるだけで、一発でなくなりますぜ」

ちなみにThuocが薬、xongが蒸気、camが風邪の意味である。1包が5000ドンというから、大体30円くらい。

「ものは試し」と、やってみることにした。

まずは大きな鍋にたっぷりの水とこのトゥックソンカムを入れて、ぐつぐつ煮る。しっかり沸騰したら、シーツでも毛布でもいいから何かをかぶり、密閉された中でこの鍋の蓋を取って、その蒸気を吸い込むのだという。

私はパンツ一枚になって床に座り毛布をかぶって、ぐつぐつ煮立った鍋が運ばれてくると、それを毛布の中に入れて蓋を取った。

熱い。顔がピリピリと痛くなるほどだ。

「熱いよ!」

というと、心配してくれてであろうか、周りに集まって来た大家の一家が、「熱くても我慢して! 顔だけでなく、胸にもその蒸気を当てるといいのよ」とアドバイスしてくれる。さらに「これも入れて」と、小さな皿に入った塩を毛布の中に差し入れてくれた。

漢方薬の臭いのする蒸気を、口から鼻から吸い込む。顔からはポタポタと汗が落ち、鼻水も出てきた。表面の温度が下がると、長い箸で鍋の湯をかき混ぜて、また熱い蒸気を立ち上らせる。カッコよくいえば「ホームサウナ」といったところだろうか。

これを15分くらい続けたところで、ようやく、

「そろそろいいでしょう」

とお許しが出て、毛布の外に這い出した。鏡を見ると、顔から胸まで真っ赤である。体中、汗でいっぱい。バスタオルで体の汗をぬぐう。薬草の効果を持続させるため、1時間程度はシャワーを浴びないほうがいいそうだ。

小生が着替えて自室から出てくると、大家の一家が、
「あの中って、熱かった?」
「蒸気を吸い込むとどんな感じになるの?」
などと次々と質問を投げかけてくる。どうして?

「キミたち、いつもやっているんじゃないの?」
と尋ねると、一同大笑い。

「ハハハ、我が家で、あれをやった人間はいないんだ。だからみんな興味津々なんだよ。風邪を引いたときは、ダンナの国・日本製の風邪薬がいちばんさ」
平然とした顔で、ご主人がそう答えてくれた。

肝心の効き目だが、これが抜群。一夜明けた今朝には、あれほどしつこかった咳がピタリと止まってしまったのだから。

まさか自分が「笑ケース」のネタにされるとは思わなかったが、今週は「しつこい咳には1回30円のホームサウナ」を殿堂入りさせることにしたい。

お後がよろしいようで…。


(担当:越野 南雄)