「ベトナムでは、バイクのことをホンダって言うんだぜ」
ホンダ(本田技研工業)に勤務する友人からこの話を聞いたとき、小生は「愛社精神を持つのはいいけれど、そんなワケないだろう」と一笑に付した。
こちらに赴任した直後、ベトナム人スタッフから「ホンダは買いましたか? まだなら買いに行きましょう」と言われたときも、まだ半信半疑。そしてお店に行き「このホンダがお買い得ですよ」と勧められたのは、音叉のマークが入ったヤマハ製。
同行してくれたベトナム人スタッフに「これ、ヤマハだけど?」と聞くと、「そうですよ、ヤマハ製のホンダです」と「コイツ、何を聞くんだ?」みたいな顔で回答された。いや、ウワサは本当だったのである。友よ、疑って悪かった。
今回の写真を見て欲しい。これは路上のバイク修理屋の看板。「Sua Xe Honda」は、バイク修理の意味である。Suaが修理、Xeが車、Xe Hondaで2輪車。もちろん、ヤマハでもカワサキでもスズキでも修理してくれる。
2輪車を意味するベトナム語も、別にちゃんとあってXe mayというが、「ホンダ」は一般名詞として、当地では完全に市民権を得ている。
だから「お前のホンダはどこ製だ?」「オレのホンダはヤマハだ」「そうか、オレのホンダはホンダだ」という冗談みたいな会話がマジメに交わされることになる。
ホンダが一般名詞化したのは、やはりシェアが高いから。かつてスーパーカブタイプの「ホンダドリーム」というバイクが大人気。当時、1台の値段が約 2000ドルと、平均的な会社員の年収を上回る額だったので、これを買うのは、庶民にとってはまさに「夢」だったそうだ。ホンダ以外のバイクも数多く出 回っている今も、いちばん人気はホンダ製と言って間違いない。
派生した言葉もある。バイクタクシーを意味するベトナム語は「セオム」(直訳すると「抱きバイク」)だが、「ホンダオム」でも問題なく通じる。バイクを流しながら客を探す売春婦を「ホンダガール」というように、好ましからぬ用例もある。
ちなみに4輪車はXe Toyota。というのは、真っ赤なウソで4輪車はXe hoiである。お間違えなきよう。
そういうわけで、今週の「街角笑ケース」殿堂入りは「バイクはホンダ」。
お後がよろしいようで…。
(担当:越野 南雄)