廃墟、その言葉がぴったり来るこのビル、実は10年足らず前までは、ホーチミン市でもっともお洒落なビルの一つだったのだが...。
その名は「フードセンター・オブ・サイゴン」。かつては、1階から3階が結婚式など宴会に使われる大型レストラン、その上にはカジノなどがあって、夜な夜な不夜城のような賑わいを見せていた。市販の地図には、今も建物のイラストが載っているほどだ。
ところが、現在は最上階に日系の会社が1社、テナントで入っているだけ。外見こそ、華やかだった往時の面影を、まだ残しているが、
「いや、中はひどいもんですよ。例えば、毎日のようにエレベータが故障で止まるので、非常階段で7階まで上り下りなんです。ところが非常階段には電気がなく真っ暗なので、危なくて仕方ありません」
と、同社の社員が、声を潜めて教えてくれた。
栄枯盛衰の激しいホーチミン市は「ドッグイヤー」の町だ。栄華を誇った会社が、数年で見る影もなく没落し、新しい勢力がとって代わる。このビルは、そのことを身をもって示してくれているようだ。
【アクセス】
ドンコイ通り周辺からチョロン(中華街)方面へ車で10分。チャンフンダオ(Tran Hung Dao)通り沿い
(原稿・写真:朋野昭)