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 【音楽・映画・本

I-POPS Vol.26 「おすすめ! バリ発インディーズ」
2008.12.01
 
Vol.26 おすすめ!バリ発インディーズの巻
その1. Saharadja (サハラジャ)
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■聴いた人1 キャンディー甲山
インドネシア無宿、東京では引きこもりの中年男。近ごろ年のせいか早起きになりました

最初の出音ひとつで違いを見せつけてしまうミュージシャン、それがバリで活動するユニークな音楽集団・サハラジャのリーダーで、トランペット奏者のリオだ。彼らの演奏を聴くと、いかに「体質」というものが音楽を決定してしまうかが、いやというほど身にしみる。Jazzがまだフロンティアを目指していたあの時代の、nomadでチャーミングな表現が溢れているのだ。地元バリで彼らと双璧を成すグループといえば、やはりワールド・ミュージックの方法論を土台としたBalawan & Batuan Ethnicだけど、その両者が目指す地平はとても異なるように思えてならない。バラワンが目指すのが「回帰するための音楽」だとすると、リオのそれは「彷徨うための音楽」のように、僕には聴こえるのだ。
音楽を言葉に置き換えるのは、時として空しくもどかしい。しかもそれが大きな才能によるものであるほど、言葉は実体から遠ざかってしまうものなのだ。だから今回はあえてこれ以上ディティールを説明しません。どうかSaharadjaのライヴを、バリ島発の現在進行形Jazzを、いつかぜひ、ご自分で体験してみてください。



 alt=""title="" Saharadja「ABRACADABRA」2007年
<収録曲>
1. Toss the Feathers(アイルランド民謡)
2. Jogetan(Rio Sidik)
3. Lost Love(Gede Yudhana)
4. Abracadabra(Rio Sidik)
5. Manny Musu(Rio Sidik)
6. Nasi Campur(Rio Sidik)
7. Heart of the Rose(Rio Sidik)
8. Saharadja Rimix(Rio Sidik and Sally Jo)
 by Zen Lemonade Remix
featuring Supercozi+Gus TiLL
ボーナス・トラック
Back to Bach(Johann Sebastian Bach)


曲評

■1. Toss The Feathers
☆甲:のっけからアイルランド民謡を持ってくるところが、非常に彼ららしい。リオの奥さんでオーストラリア出身のサリーは、物怖じしないスケールの大きなヴァイオリン演奏により、サハラジャというグループが目指す原風景を、ひとふで書きで見事に暗示している。この彷徨えるアイルランド娘のカデンツァにあわせて、バンドゥンのタブラ叩きや、スラバヤの伊達なトランペット吹きも、そろそろ旅支度の頃合いだ。
ブノワ・ベイ。本日モ快晴ナリ。

■ 2. Jogetan
☆甲:リオのフレディー・ハバートばりのトランペットが、あなたを砂漠のオアシスへと誘います。若干30才にして、すでにこの出音。そしてトップ・ハットすら似合いそうな、オールド・ファッションな色気。ところで砂漠にしては、ここは妙に湿度が高いし、しかも風景がモノクロじゃないか? 朽ち果てそうなステージで踊っているのは、マリアッチの衣装に身を包んだマハラジャだ。もしかしたら、まだここはバリ??? そんな些細な疑問の数々はものともせず、彷徨える楽団の旅は続く。

■ 4. Abracadabra
☆甲:シガラジャの古い寺院に紫色のとばりが降り、上機嫌になった楽団は呪術師たちと共に、貿易風のケチャを奏でるのだ。カンテラに照らされたジャングルの海原を、音も無く滑って行くのは、あれはマラッカから迂回した鄭和船団ぢゃあないか!やがて船乗りが噛み砕く、まっ赤なビンロウジュが港を朝焼けに染める頃、全ては跡形も無く、古道具屋のラムプに吸い込まれてしまふのでした。

■ 5. Manny Musu
☆甲:コーヒー占いのジプシー女によれば、コーヒー豆には「父豆」と「母豆」があるそうだ。「父豆」の刺激と「母豆」の芳香が絶妙にブレンドされると、苦味までもが上質な甘味へ変化するという。でもいくら器用にブレンドしたって、それだけじゃ本当の甘味は出ないね。ちょっとしたコツがゐるのさ・・・・・そしてジプシー女は、煙草入れから飴細工のような玉虫を取り出すと、おもむろにリオの手のひらへ置いた。「そいつをペロっとなめてから、コーヒーを飲んでごらんよ」
女の話はヨタだと分かっていたけれど、ついペロっとなめて飲んだアラビカ・コーヒーの香りは、確かにこのうえも無く甘かったな。と、照れながらリオは言うのだ。

■ 7. Heart of The Rose
☆甲:さてさて、ようやく楽団がバタヴィアのキャバレェにたどり着くと、そこでは素っ頓狂な道化の一座が、酔客の腹をよじらせてゐた。こちらも存分に腹をよじらせて、しばし横目でうかがえば、ギター弾きのグデだけなぜか浮かぬ顔。おいおい、お前またいつものあれだろう?旅立つ前にふられたアユへのメランコリーが、またぶり返しちまったんだろう?ところであの道化娘、ずいぶんとアユに似てるぢゃねえか。せっかくだから芝居の余興に、お前さんひと肌脱いでやらねえか?
というわけで、しぶしぶ舞台に押し出されたグデではあるが、さても恋は異なもの味なもの、いきなりグデは道化娘に一目惚れだ。やるせない想いの丈をこめて奏でる、センチメンタルな三拍子。そのニーノ・ロータばりのメロディーに、娘の滑稽な芝居の息もピッタリで、お客はやんやの拍手喝采!言うなら間髪入れず、今だ!
グデ「もしもオイラのことを気に入ってくれたなら、その胸のバラと接吻をくれないか?」
道化娘「いいのかい、本気にして。だってアタイこう見えても・・・・・オトコだよ」
彷徨える楽団の旅は、まだまだ続く。


その2. Nutrix (ヌトリックス)
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Nutrix「Fauthful」2006年

<収録曲>

1.Aku:俺
2. Shadow 
3. Hitam:黒
4. Ranaway
5. Soul Voyage
6. Technology
7.Shadow (Remix

■聴いた人2 蓮次郎子
インドネシアの芸能ゴシップとオンチェ命のミーハーメタボ主婦

観光地で生まれ育ったバランス感覚がなせる技なのかどうなのか、バリ島クタ・レギャンのインディーズ・シーンには、不思議なホンモノっぽさを漂わせた“そこだけ無国籍地帯”なバンドがいます。メジャーデビューした有名どころで、海外ツアーも行うSID(スーパーマン・イズ・デッド)しかり、前々回にご紹介した“ブラック・エルビス”率いるThe Hydrantしかり。インドネシア語の歌詞が「意味のわからない英語」に聞こえるほど “こなれて”いるサウンドは、国籍不明でエッジな魅力に溢れています。そんなクタ・レギャン界隈に点在するパンク・ショップで腕にタトゥーを入れている最中のモヒカン兄ちゃんが「デンパサールのバンド、凄くいい感じだよ」とにっこり爽やかにおすすめしてくれたのがこのアルバム。ハードなPadiといった雰囲気のブリティッシュ系ロックあり、オサレなテクノあり、ストレス炸裂のハードコアありと盛り沢山な内容で、収録7曲中4曲が英語。録音も演奏も荒削りだし、曲によっては展開や詰めに甘さがあって洗練とまではいきませんが、やけにスケールの大きなサウンドとボーカルの呟くようなアンニュイ・ボイス(と対照的なデス声の絶叫も)が、ツボにはまって仕事中の愛聴盤になっています。


曲評

■1. AKU
☆ 蓮:いきなり目の前にどーんと広がるオーシャンビュー!しかもサンセット!といった感じの突抜けたイントロに期待を膨らませ「来るぞ来るぞ」とスケール感爆発であろうサビを待っているのに、途中で激しめロックになってノ.さらに途中でかぶるデジタルなフヨフヨ音に「テクノ風味?」ノで、で、サビは?あれ?終わっちゃった...。ひとつひとつのフレーズはそれぞれいい感じなのにアレコレ詰め込み過ぎて散漫な印象。とりあえず満腹感はあります。

■2.Shadow
☆蓮:アルバムに先立って発表されラジオを中心にローカル・ヒットした英語曲。南国ムード皆無、ひんやりしたギターサウンドとUKロック調のサビ、アンニュイな声質のボーカルが何とも渋い。こういうヒネった曲があっさりヒットするあたり、さすがカンプン・インターナショナル(:インターナショナルな田舎)バリ島です。アルバムの最後に収録されているリミックスは、ディープなベースサウンドがこれまた渋いアンビエント・ヴァージョン。この東南アジアを全然彷彿とさせないヨーロピア〜ンなセンスはいったいどこからやってくるのか...。

■ 4. Runaway
☆蓮:透明感のあるスローなイントロから静かに盛り上がる切ない系のロックナンバー。この国で生きることの迷いと矛盾を歌ってます。歌詞の中にU2の“I still haven't found what I looking for”の歌詞が挿入されているのは、リスペクトの表明でしょうか。偽善に満ちた偉いヒトへの怒りのあまり後半一瞬ハードコアに逝きかける振り幅の広い曲。

■ 6. Technology
☆蓮:これも地元ラジオなどで先行ヒットした曲。てっきりアメリカかどっかのハードコアバンドの曲だとばかり思っていた&アルバムがリリースされていないので探せど見つかるはずもなく。このアルバムを試聴して初めてバリのバンドの楽曲と知ってかなり興奮しました。アラビアン風味のハードなメロディーラインに突如これまでとは全然違うハードコアなデス声が炸裂する珠玉の一曲。人前で感情的になることを良しとせず、相当カチンと来ていても顔に微妙な薄笑いを浮かべることができるバリ人の間でハードコアがヒットするというのは実に興味深いものがあります。無理はイカンよ、やっぱり。

<次回は「年末だよ!恒例・2008年I-pops振り返り企画」をご紹介します。>