副題「わたしの"アジア就活"35のストーリー」とあるように、本書は本社派遣、現地採用、現地起業、ロングステイなど海外で働く様々な日本人35人が如何にしてアジアへ出ていき、職を獲得したのかを取り上げている。そして本書の特徴は従来型の「日本ではダメだったが、アジアで一旗揚げた」というサクセスストーリーではなく、また進出失敗事例集でもなく、生身の日本人がアジアで働く本音が語られている点ではなかろうか。
一般的に世の中でマスコミが取り上げる情報は「中国で起業し悪戦苦闘の上成功した」などというギラギラした発展型のものばかり。実際には本書に出て来るような「日本での暗黙の苦しさ」「希望のなさ」に嫌気がさして、給与条件などが下がっても、ゆるーい社会で、自分らしく生きられる場を求めている日本人が増えている点に注目すべき。
今回の大震災以降、人の幸福について、語る人が増えている。本当の幸せがお金ではない、と分かってはいても、先立つものが無いと生活できないという不安。これを払拭する様々な可能性を本書は示してくれている。但しアジアの生活はバラ色という訳にはいかないが。
ただ本書に登場する人々は何となく海外志向があり、特にアジアへの抵抗感が少ないが一般的な日本人はどうだろうか。「アジアでハローワーク」のハードルはそれほど高くない、とあるが、先ずは日本人各人の意識を高めていく必要がある。現在も就職氷河期、日本がダメだからアジアで職を得ようと言う安易な考え方をする学生がいれば、それは決して将来性のある話ではない。アジアを対等な目線で見られ、普通の生活の場として考えられる人材が求められている。
本書の中で「日本人の価値が下がってきている」と題した簡単なコラムを書かせて頂いた(P141-143)。島国日本で就活するのとは違い、他国で自らを生かしていくには、「自らの価値はどこにあるのか」をよく確認していく必要がある。日本では資格マニアと呼ばれる人々もいるが、海外で通用する資格はそう多くはない。語学にしてもスキルにしても、もっと実践的な学習が必要とされ、またその国に関する基礎知識の習得も必須になってきているのは事実。しかし最後は意欲と人柄。本書の中には現地の事情も分からず、言葉もままならない中、働き始めて人もいる。バンコックで再就職を目指す日本のおじさん向けに人材派遣会社社長から聞いた一言、「就職が決まるのは謙虚な方です」。肝に銘じておこう。
尚本書の表紙はオフィスで私の向かいに座っている旅のお絵かき作家とまこさんが担当している。そのイラストは「リクルートスーツでバックパックを背負う女性」である。