昼食後直ぐにラモから声が掛かり、彼女が運転するオフィスの車でマトヘ向かう。マトはP師の故郷と聞いており、楽しみだった。途中までティクセに向かう道を通り、そこから山に向かって一直線に行く。更に山と平行な道があり、そこへ。その時向こうから馬の隊列がやって来た。あまりの美しい光景に思わず車を止め、写真を撮る。そこからは四方、どこを見ても素晴らしい景色が続く。雪を頂く山々と雲。
ラダックで車を運転するのはなかなか難儀だ。道が全て平らであれば問題ないが、所々でこぼこの上、対向車が来れば路肩へはみ出す。ラモは相当慣れているようで、スイスイとこなしていく。ほぼティクセと平行ぐらいの場所で、また山に向かう。少し行くと、小川が流れている。そしてマスタードの黄色い花が咲き乱れている。荒涼とした大地で見る花、何だかここだけラダックではないかのようだ。
かなりの坂を車は上る。これは歩いては大変である。その上に寺院は建っていた。そこからの見晴らしは絶景であり、また驚くのは村がそこだけ緑と黄色で鮮やかに見えていること。まるで絵でも描いたかのようだ。
マト寺院は晴天の中、静まり返っていた。誰一人観光客はない。地元民もいない。ただ新しい仏像を安置する場所で作業している人がいるのみ。どうなっているのか。ようやく寝ていた寺男を見付けて、案内を頼む。ここはチケットではなく、ドネーションで領収書を切る。
マト寺院はこの辺り唯一のサイケヤ系寺院。15世紀初頭に王家より土地の寄進を受け創設。16世紀にイスラムの侵攻を受け、寺院は破壊され、王も捕虜となるがその後解放され、再建。僧侶はチベットで伝統と仏典を学び、伝統的チベット仏教が色濃く残る。マトナグランと言う祭りが有名。本堂3階部分にあるゴンカンで僧2人がトランス状態になり、神託が与えられる。3階は女人禁制であるが、ラムは尼僧であり、入室を許された。非常に小さく薄暗い部屋である。
この寺院は2階に小部屋がいくつかあり、同じ形の仏像が21体ある所や、経典が納められている部屋、博物館などがある。また1階端には、かなり新しい仏像が安置されており、色鮮やかである。因みに寺が極めて静かだったのは全ての僧侶がヌブラと言う場所へ出かけて留守だったことが分かる。
それにしてもここからの眺めは実によい。先日のティクセもシェイも一望できる。下を見れば緑が鮮やか。下から寺院を眺めると実に立派。そしてP師の実家の横を通ると、畑があり、ゆったりとした造り。新しいものと古いものの2つが見える。P師のような人物を育むにはこのような環境が大切であるかと思う。