エクスプレスは確かに18分で着いてしまった。しかし私にはまだ出発まで4時間半もの時間が残されている。先ずはチェックインが出来るかどうか。恐る恐るカウンターへ向かうとチェックインはいとも簡単にできた。そこでつい、「何故市内でチェックイン出来ないのか」と聞いてしまった。
職員は誇らしげに「それはインターナショナル・ルールだから」と答える。これまで大抵のことには我慢できていたが、この近代的な空港でインドのことしか知らないにいちゃんにインターナショナル・ルールを持ち出されるとちょっと怒る。香港だって、他のアジアの都市だって、市内でチェックインできるぞ、と言い返すと、彼も本気で応戦してきた。
とその時、後ろに一人だけいたインド人のおばさんが「そうよ、香港ではチェックインできたわ」と助太刀してくれる。職員もおばさんの勢いに押されて私にボーディングパスを渡す。しかし更におばさんが「あんた、香港人?香港はひどいわね、英語が全く通じない、何アレ」と怒りの矛先を私に向けて来た。確かにおばさんのインド英語は相当凄まじく、ほとんど聞き取れない、香港人も参ったことだろう。早々に退散する。
イミグレは結構並んでいたので、早めに通過しようと列に並ぶ。後ろに中国人の団体が20人ほど並び、口々に「インドって、なんでこんなに遅いんだ」と北京語でまくしたてる。私にしてみれば10-20年前、あんたの国もこれと同じくらい遅かったんだと言いたくなる。
30分ほどしてようやくイミグレを通過、ホッとして荷物検査を通過しようとすると、お姐さんが「タッグが無い」とつぶやく。そして私に目配せして、「キングフィッシャーのオフィスへ行け」と小声で言う。私は意味が分からず、何言っているんだ、と聞き返すと、万事休す、といった表情になる。彼女の上司がやって来ていきなり、「タッグが無いなら航空会社カウンターへ戻れ」と叫ぶ。一瞬何が起こったか理解できない。説明を求めてもおじさんは私のボーディングパスに押された2つのハンコにバツ印を付け、イミグレを指さす。しかしここから戻る方法すら分からない。どうするんだ、途方に暮れる。
仕方なく、イミグレへ向かうと銃を持ったおじさんが「なんだ」と怖い顔でにらむ。検査台を指して、訴えるとそのおじさんが、検査台で状況を確認して、ちょっと来い、と手で合図する。とうとう一からやり直しか、はたまた賄賂でも要求されるかと思っていると、おじさんは自分の席から何かをポーンと投げてよこした。見るとタッグである。それを持って検査台へ行くと、何事もなかったかのように通過できた。一体今のナンだったのだろうか。しかもよく見るとそのタッグは私の搭乗するキングフィッシャーではなく、エアアジアのものであった。これがインドの柔軟性か。
中に入ると、そこはインドではなかった。高級車の展示あり、マックやビザ屋あり、広々とした空間で人々が飛行機を待っていた。「インドは一度トラブルと大変なんです」と言われていたが、厳しくもあり、また楽しくもある場所である。それにしてもあのタッグはカウンター職員がドサクサに紛れて、わざと渡さなかったのだろう。それでも何とかなってしまう所がやはりインド、ということか。今回もまた大いに勉強になり、人生を考える上で大きな意味があった、と思う。
完