そして車は山道へ。両側に建物など何もない高原が続く。ゆっくりゆっくり上って行く。途中で馬の放牧に出会う。何とも言えないのどかな風景。と思っていると運転手が突然一眼レフを構えて車を降りていく。聞けば、彼は写真が趣味で、運転しながらいい風景を撮影しているらしい。彼によれば、この馬の放牧風景はこれまでに見たものの中でもとりわけ美しく、写真を撮りたいという。私も撮影に挑戦したが全く上手く撮れない。これはカメラのせいだけではなさそうだ。
そうこうしている内に、随分高い所まで登ったな、と感じたころ、突然看板が見える。海抜3820m、え、私は知らない内に富士山より高い所へ来ていた。ここでは皆が車から降り、写真撮影などしている。私は高所恐怖症、3820mを見て、急に眩暈が・・。これだけ高い所に来たのは初めてかもしれない。
とてもきれいな山並み、高原、雲、続く。ここはいい。広々として、雲が流れ、山が流れ、そして、羊が。途中急に雨が降り出す。山の気候は変わりやすい。天気は悪いが、何だか救われる思いがする。特に低く垂れこめる雲の形が素晴らしい。この風景も表現が難しい。
1時間近く走って、ようやく青海湖が見えてきた。湖というより海だと思えるほど大きい。そして平たい。湖が近づくと、少数民族が盛んに旗を振り、こちらへ来いと合図する。湖へ続く道を確保し、彼らは独自の場所へ案内するらしい。駱駝などン観光客を乗せて日銭を稼いでいる。
時間は昼を過ぎていた。昼ごはんは湖畔のレストランで。何軒かが並んでいる中の一軒に入る。陳さんは以前もここに来ているようだ。しかし兎に角混んでいる。ひっきりなしに観光客が入ってくる。我々は何とか席を確保したが、注文を聞きに着てくる気配もない。陳さん自ら立ち上がり、オーナーを探しに行く。オーナーは漢族のようで、話がついて、オーダーが通る。
出て来たのは青海湖で取れた魚の甘酢あんかけ。結構大きな魚だ。野菜炒めなどは普通の物。そして白いご飯を魚の汁にかけて食べようと注文したが、なかなか出てこない。催促してようやく出て来たご飯を一口食べて「あれ、」。このご飯、芯がある。どこかで食べたような気がするが、決して美味しいものではない。陳さんは「僕は結構好きだけどね。ここは標高が高く、沸点が低いため、ちゃんと炊くことが出来ない」という。そうだ、それだ。どこで食べたかは忘れたが、何となく懐かしい味がした。
食後、湖面を眺める。湖の直ぐ近くまで車を寄せて、観光客が波打ち際で写真を撮っている。本当に海のようだ。駱駝が「美しい青海」と書かれた看板の前にどん、と構えてお客を待っている。しかしこんな所で駱駝に乗る人間などいるのだろうか。いや、中国人のこと、お調子者は必ずいるということか。
帰りに道路で異様な集団と遭遇。先程タール寺でも若手の僧が行っていたが、五体投地をしている。寺の中でするのは何となく運動という感じであるが、こちらは厳しさがひしひしと伝わってくる。剣でいえば、木刀と真剣の違いか。4人の集団だが、一番前は何と女性。エプロンのような前掛けを掛け?肘をかばい、完全防備で臨んでいる。彼らは一体どこまで行くのだろうか。ラサまでだろうか。この標高の高い大地を一歩一歩、いや一体一体、進めていくことの苦難は想像だに出来ない。凄いとか何とかいう次元ではない。25年前ラサでの大昭寺で見た、あの五体投地、宗教とは何かを再度考えさせられる。