6. フエ (1) フエまでの列車の旅
ダナン駅に列車が入線した。乗客がホームへ入って行く。私も後からついて行くと、何とホームはなかった。ようは列車から地面へ乗り降りするだけ。ただ周囲には食べ物や雑貨を売る店が並んでおり、物売りも多い。
私は兎に角指定された車両へと急ぐ。アナウンスは全てベトナム語で、いつ発車するかもわからない。先ずは乗り込むのが先だ。ようやく車両を見付け、大勢が乗り込む中、車掌さんに切符を見せ、何とか乗る。
車内は90年代の中国の列車と言った雰囲気。人は半分も乗っておらず、これは空いていると適当な場所へ腰を下ろした。ところが横のおばさんがベトナム語で何か言っている。どうも座ってはいけないらしい。今度は自分の座席を探して座る。荷物が多いので何となく狭いが隣が空いていたので、荷物はそこへ。ところが発車が近づくと大勢が乗り込んできて満員に。分かったことは、この駅では20分も停車しており、皆が昼ごはんなどを買いがてら気分転換していたということ。
私はと言えば、いつ出るともわからない車内でジッとして居て、昼ごはんも買い損ねる。唯一車内販売が回ってきたが、それを逃したのが大きい。また来るだろうと思っていたが、その後3時間、フエ到着まで2度と現れなかった。
出発すると乗客は思い思いの行動を取る。本を読んだり音楽を聞いたりするのは一般的だが、何と駅で洗濯したタオルも干す者も。この列車、ホーチミンからハノイまで1日以上は掛かる。皆気だるい雰囲気で、動作も鈍い。
列車の速度はこれまた非常に遅い。時刻表を見た時、何故僅か100㎞行くのに3時間掛かるのか不思議であったが、今は不思議でもなんでもない。時速30-40㎞しか出ていないのではないか。海岸線沿いを走っているせいもあるのか、やたらにカーブが多く、全てがゆっくりである。
しかしこのスピードに慣れて来ると、なかなか心地よい。中国のような高速とはかけ離れた世界、時間がまるで止まったような世界を体験できるのは貴重である。車内にいると速ければいいというものではない、と言われているような気になる。
それでもこの列車で一昼夜過ごすのはきつい。日本が新幹線を売り込んでいるようだが、それも必要かもしれない。しかしその結果、このダラリン列車が廃線になるのは悲しい。列車は一つも停車することなく、3時間後フエに到着した。私にはここがフエかさえ分からなかったが、先ずは降りることにした。