(4) 王宮
広場はないが、ベトナム国旗がはためく。午後の日差しを浴びて立つ石の門はどことなく、天安門を想起させる。門を潜ると2つほど、建物がある。全て平屋で、起伏はあまりない。そこから先は廃墟になる。勿論建物は最近再建されたもので、ここはグエン王朝を偲ぶ廃墟なのである。
グエン王朝、1802年から1945年まで存在した中国傀儡王朝。中国清朝の影響を強く受け、中華風の建物、様式を持つ。何となく、見たことがある風景なわけだ。王宮の門は午門と呼ばれ、北京の故宮では天安門の北側にある。その向こうの建物は大和殿、これも故宮と同じだ。この建物はベトナム戦争中に完全に破壊され、戦後再建されている。この王宮自体が廃墟に見えるのはベトナム戦争の影響大と言うことだ。
「夏草や 兵どもが 夢のあと」、芭蕉のこの句が思い出される。王宮内の真ん中は草むらである。夕陽を浴びる草むらは豪華な建物よりもはるかに旅情を誘う。欧米人も思い思いに座ったり、話し込んだりしている。こんな世界遺産もあってよいと思う。
裏門に近づくと、フランス風の建物が登場。その向こうには王宮を囲むお堀があり、裏から外へ出られる。流石に昼食抜きでここまで走ってきてしまった。門番に一度外へ出て戻って来てもよいかと聞くと、何の問題もない、と首を縦に振る。
外に出ると午後4時、レストランがあった。オジサンが一人、暇そうにしていた。こんな時間にお客があるとは思っていなかったようだ。豚肉、卵、そしてシナチク。ご飯を盛って、食べる。空腹もあぅたが、これは美味い。この味は、特にシナチクの風味が出ている、この味は台湾でよく食べたものだ。大盛りで一気に食べる。僅か3万ドン、安い。
再び王宮に戻り、腹ごなしの散歩としてゆっくり歩く。今度は外周を歩くと、何と向こうから象がやって来る。どうやら、象に乗って王宮を散歩する、というツアーが企画されているらしい。面白い。
午門の上に登る。夕陽がキレイだ。日本人観光客は次の日程に追われ、去って行く。中国人観光客も同じだ。フランス人の若者などは門の上で、様々な議論を交わしている。このような場所では、色々と意見を行って見るのは相応しい行動のように思う。
人がいない反対側(夕陽が見えない側)に行って見ると老夫婦が2人、一段高い場所に腰を下ろし、足をブラブラさせていた。何だか子供の頃に見た光景だ。と思って、近づいてその会話を聞くと、何と日本語であった。このご夫婦、子供の頃の夕暮れを思い出していたのだろう。良い風景だった。