益陽茶代理店でいきなり
更に歩いて行くと数軒の黒茶屋さんがあったが、既に閉まっているか、薄暗い店内で寂しく商売をしていた。確かに雨の土曜日の夕方、人が来る気配もない。ようやく総代理店を探し当てると、そこには先客が2人いた。躊躇っていると「こっちに来て座れ」とのことで座る。「なんか用か」と聞かれたので、黒茶の歴史、新疆との関連などについて知りたい、と伝える。
すると隣に座っていたオジサンが、すらすらと答え始めた。時々中国ではそれほど知らないのに知ったかぶって大声で話をする人がいるが、このオジサンの答えは実に的確で、私の知りたいことを解説してくれた。特に新疆関連については「国策で作っており、儲けはそれ程ない。価格は政府の補助があり、新疆では安く売られている。文革中でも新疆やモンゴルの為に生産を止めることはなかった」という。
オジサンが「月曜日に工場は開くが、工場見学は一般人は出来ない。製造方法は一つの国家機密だ」と言い、店員が持って来たお茶に菌花のついた茶を指した。なるほど、菌が茶葉に付着し、独特の状況を作り出している。「だが、工場の隣に博物館がある。そこには入れるから月曜日に行くと良い」と言い、店のオーナーにアレンジを依頼してくれた。
このオジサン、一体何者だ。店内に黒茶関連の本が置かれていたので何気なく手に取ると、何とそのオジサンの顔写真が載っていた。黒茶の専門家で、かつ現在はこの益陽市の茶葉局の局長をしている人物だった。市政府に茶葉局がある、それで益陽市の支柱産業の一つに茶業があることが分かる。その局長と言えば偉いだろう。
オーナーが「飯だぞ」と声をかけ、局長たちが奥へ入る。「お前も食ってけ」と言われご相伴に預かる。ここの飯は実にうまかった。鶏肉は新鮮だし、味付けは濃いが、私に合っていた。湖南省の漬物はご飯に実によく合っていた。シーズンということで、蟹も沢山食べた。もう満腹だった。
食事の最中、私の経歴を話している中で日本人であることを告げると皆一瞬驚いていた。ちょうど反日暴動直後でもあり、「えっ」という雰囲気になる。私の中国語は決してうまくないが、その風貌と相俟って、日本人に見られることはまずない。局長が「日本とは色々とあるけれど、茶を飲んでいる人は友達だな」と一言言い、その場は和んだ。そして何故か一層食事が進んだ。そんなもんだ。