真昼の大宴会
どうしようかと又迷っていると向こうから女性がやって来た。こっちだ、という感じで、ずんずん先導していく。私が会うべき人物、鄧さんだった。レストランへ入る。既に人が沢山いる。一体何が始まるのか、そして私はどういう位置づけなのか、さっぱり分からない。
言われるままに奥の丸テーブルの席に着く。私の横に鄧さん、反対側には一番の長老であるおじいさんが座った。まさか私が主役ではいないよな、と不安に。今時どんな田舎でも外国人が来るからと、みんなが集まって宴会はないだろう。
おじいさんが何処から来たのか聞く。「日本人だ」と答えると、一瞬皆「え、」となる。良く見るとテーブルの向かい側には公安の制服を着た男性までがいた。あれ、どうしよう。するとおじいさんが「今回の野田(首相)のしたことは明らかに間違いだ」と言い始めた。これはまずいことになった、尖閣問題がこんな所で飛び出した。他の皆もどうしたものかと成り行きを見ている。
私は「政治的には日中は色々とあるが、私は純粋に皆さんの街のお茶の歴史を知りたくてやって来た者だ。安化黒茶について教えて欲しい」と率直に伝えたところ、誰かが「それはいいことだ」と発言、おじいさんも「好!」と言って、急激にその場が和んでいった。おじいさんも取り敢えず長老として、一言形式を述べたにすぎないという顔をして、その後は実に和やかに食事が進んだ。日本で報道されているような雰囲気ではなく、一つの儀式のようなものだった。
しかし鄧さんは今一つ浮かない顔で「そうか、お茶の歴史が知りたいのか、それなら街に詳しい人がいるかもしれない」などと言い出し、当初はあまり相手をしてくれなかった。というより、何故か皆が鄧さんに向けて白酒を突き出し、乾杯の嵐となる。これは凄い、真昼の大宴会だ。ようやくわかったのは、今日が鄧さんの誕生会だったこと。中国では誕生日の人が皆に御馳走するから、彼女も自分持ちで日頃世話になっている人、親せきなどを呼び集めたらしい。それにしても白酒のビンがどんどん空いて行く。恐ろしい。
料理も豪快だ。蛇の煮込みや虫の唐揚げなど、ワイルドな料理がテーブル中に並ぶ。久ぶりに辛い食べ物を堪能した。湖南省と言えば、辛い、というイメージほどではないが、程よい辛さの料理が多い。
鄧さんが酔っぱらって来た。するとしきりに私の方を向いて「よく来た、本当にこんな所までよく来た」と言い出す。そして「やっぱり、あんたは私のお客だ。私の工場を見に行く」と言い、宴会が終わると車に乗り込む。親戚数人がそれに続く。