たった15分の国際列車
乗客は待ちかねたように急いで降りていった。隣の爺さんも笑顔で出て行った。そして殆どの人が駅の外へ足早に出る。そこからトゥクトゥクに乗って国境を越えるらしい。私は周囲を見渡した。そこにはわずか2両の列車が見えた。これだ、私の乗るものは。駅舎の中にチケット売り場があった。2等車30バーツ、3等車20バーツの表示があったが、どう見てもそんな区別はない。20バーツ払う。そしてイミグレを通過。ただの改札を通るような感覚で、タイを出国した。
実は旅行作家のSさんから以前話を聞いていた。「たった15分の国際列車」この列車はバンコックから来る列車の乗客の為だけに運行されている。だから、列車が4時間遅れれば4時間待つ。Sさんは態々別ルートでノンカイに入り、朝から駅のベンチでこの列車を待ったが、その時は6時間遅れだったという。笑えない取材だ。
列車はとても国際列車とは思えない車両。昔の日本の私鉄を思わせる。乗客は大きなバックを背負った欧米人ばかり。この列車の価値を見出す人々である。そして全員のイミグレ通過を待ってようやく発車する。何ともローカルな国際列車。
すぐに川を渡り、国境を越えたことが分かる。タイもラオスも長閑な農業国。線路脇に結構きれいな住居がある。国境貿易で儲けたのか、それともタイからの投資か。ビエンチャンで開かれるASEM歓迎の看板が出ている。こんな所から入る代表団もいないと思うのだが。そんなことを考えていると、もう列車はブレーキを掛けた。何とも呆気ない旅だった。
全員がホームへ降りる。欧米人がビザ申請書を受け取り、書き始める。私も申請用紙を貰おうと思ったが、係官が「お前は日本人か、それならあっちいけ」と素っ気ない。仕方なくあっちに行くと、いきなり入国スタンプを押され、解放される。何と日本人はビザ不要となっていた。そんなことも知らないでやって来てしまっていたのだ。
この何もない駅からビエンチャン市内へはどうやって行くのか、全く分からない。しかし出口に付近にテーブルが出ており、看板にはビエンチャンまで車で400バーツと書かれている。何でそんなに高いのだ、完全に旅人の足元を見ている。何とかしたかったがどうにもならない。とそこへ、若い男女がやって来た。同じように困っていた。そうか3人で借りよう、ということになり、結局一人100バーツでトゥクトゥクをゲット。
ベトナム人の女性とフィリピン人の男性。ラオスでは日本などの他、アセアン諸国にはビザを免除しているらしい。ようするに我々3人だけがアジア人、残りの乗客は欧米人だったことが分かる。何となく愉快な気分になり、風に吹かれながら、旅を楽しむ。ノービザの3人、これはいい出会いだった。