茶作り
茶縁坊の息子はいなかった。どこにいるのだろうか。尋ねると高さんが『行こう』という。そして家から出て村を出て山へ向かう。今にも雨が降りそう。既に地面が濡れているのは午前中も雨が降ったのだろう。今日茶摘みはなかったそうだ。足を滑らしながら何とか着いて行くと、茶畑が段々畑になっている。1つずつはかなり小さい。
ようやく山間の家に着いた。斜面に建てられたその家は古風で何ともいい感じだった。中へ入ると息子とおじさんがいた。このおじさん、高さんのご主人のお兄さん、張さん。彼が茶縁坊の鉄観音茶を全て作っている。今日茶摘みはなかったが、昨日摘んだ茶葉の処理を行っていた。ちょうど重要な火入れの最中。かなり気を使って何度も手で籠を掻き回していた。この作業が茶の味を決める。
先ずは出来立ての茶を飲んでみる。非常に地味だが、甘い香りがした。そして飲んでみると口の中に甘味が残る。何だこれは、茶杯がまるでワンワン言っている感じで、実に、実に美味い。その一言しか出ない。カップに残った香を嗅ぐ。これはすごい。天然の水を使っており、水そのものがほんのり甘いのだ。これは昔行った潮州の山中で出会ったものと同種だった。やはりここと潮州、雰囲気も似ており、文化を一にしているようだ。
「昔は家族でここに住んでいた。空気もいいし、環境も良かった。でも不便だということでかなり前に今の家に引っ越し、ここは作業場になった」のだという。20年も前に、日本人を含めた外国人調査団がこの村にやって来て、皆がこの家に泊まりたがったという。それは分かる気がした。因みに当時は貧しい村の様子を写真に撮られるのを村の役人はひどく恐れていたそうだ。時代は変わった。「夜ここで寝ているとお化けが出るぞ」、張さんがおどけて見せた。