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2013.09.17

 旅行記(中国)

鉄観音の故郷を歩く(10)安渓大坪 村の抱える悪循環

村の抱える問題

 

張さんには息子がいる。孫もいる。一緒に住んでもいる。だが息子は張さんのやって来た伝統製法を捨て、機械での茶作りを選んだ。確かにあれだけ大変な作業を子供の頃から見ていれば『もっと楽に儲けたい』と思うのも無理ないことだとは思う。

 

最近の促成栽培、促成製法は機械に頼っているうえ、どうしても作業工程を省略するなど、いわゆる手抜きが行われる。それで質の良いお茶が出来れば問題ないのかもしれないが、現実はそうはいかない。きちんとした作業をしないと質は低下していく。質が低下すると飲む人が減り、価格も下がって来る。価格が下がると収入を確保するため、更に大量に質の悪い茶が作り出され、市場に出回って行く。これはもう完全に悪循環。結果として農家も農村も疲弊していく。安渓だけの問題ではなく、中国の至る所で起きている問題ではなかろうか。


 

もう一つの大きな問題は収入が減ることによって、村を出ていく人が増えること。息子には嫁さんがいるはずだが、一度も見掛けない。聞けば泉州に出稼ぎに行ってしまったらしい。とっくに茶業に見切りをつけている。『この村の働き手で残っている者は普通話が下手なんだ』と言われたが、確かに村の方言だけでは余所の場所では通用しないので、村に残らざるを得ない人々もいる。


 

母親がいない寂しさか、孫は勉強もせずに遊びまわっており、時々父親と喧嘩になる。私がいた時も階下で怒鳴り声が聞こえてきた。この閉塞感の中で皆苦しんでいるように見える。かと言って、いまさら伝統製法には戻れないし、もし戻ったとしても、その価値を評価して適正な価格で買ってくれるお客さんがいなければ、どんなに品質が良い茶でも意味はない。


 

午後村を回ってみる。お婆さんたちが総出で茶葉の選別作業をしていた。遠目に見ても、きれいな緑の茶葉が並んでいる。しかし鉄観音本来の色はもう少し黒っぽい。手を抜くと緑茶に近くなるので緑が映えて来る。観光客には見栄えがいいし、手間が掛からないのでこちらが好まれる。だが何度も飲むわけにはいかない、そんなお茶である。