平日の昼間、スクンビットからバスに乗ったのは間違いだった。48番のバスで終点まで行けば直ぐに分かると書いてあったのだが、そのバスが来ない。大渋滞だ。仕方なく同じ方向の無料バスに乗り、様子を見る。ウトウトしていると、1時間近くも過ぎたが、プロンポーンからサヤームまでしか行っていない。バスを降り、48番を待つがどうしても来ないので508に乗ってみる。エアコン付きのバスは行先を言わなければならないが、「ワット・ポー」と車掌に言うと大きく頷いたので、何とかなりそうだ。
バスはヤワラーの北の道を行き、地下鉄工事の影響かくねくね曲がり、何とかワット・ポーの横に着いた時には午後4時になっていた。スクンビットからここまで2時間近くかかった。何たること。そしてワット・ポーの横を南へ向かうとまた道路工事。その向こう側に目指すサヤーム・ミュージアムがあった。レトロな建物が印象的。だが中は結構モダン。
入口へ行くと係員の女性が「あなたはラッキー、4時から入場料無料です」と言ってシールを張ってくれた。外国人300バーツと聞いていたので、すごく得した気分。先ずはビデオ上映を強制的に見させられる。普通の博物館では素通りするが、ここはそうはいかない。面白い。
5分ぐらいのビデオで、「タイ人はどこから来たのか」というこのミュージアムのテーマと、そして「過去はどうであれば今のあなたはタイ人」という地元向けのメッセージが込められていた。こんなビデオは珍しい。タイ料理って?というところでは思わず笑ってしまった。日本とタイ、色々な意味で似ているところがあるが、「自国民のルーツ」に触れたがない国にしては斬新な企画だ。日本もやればよい、と思うのだが。
3階の上がると先ず「スワナンプーン」が出て来る。これは今の空港の名前だが「黄金の地」という意味らしい。この辺も「ジパング」を想起させるが、肥沃な土地であり、様々な人々の攻防があったことを窺わせる。そして様々な民族が往来し、様々な文化が過ぎ去り、宗教も登場する。仏教の部屋はかなり明かりを落としてあり、瞑想スペースになっているが興味深い。タイに仏教が入ったのはいつ?それからスコータイ、アユタヤ、と時代が流れていく。
このミュージアムは外国人観光客に見せる博物館とは違い、自国民にタイを考えさせるところが面白い。ただ私が常々テーマにしている「タイ人とはだれか?どこから来たのか?中国との関係は?」というところに関して、明確な回答が示されているわけではない。そこも日本と似ているようだ。
その後夕暮れのワット・アルンを訪ねる。わずか3バーツの渡し舟。乗ったのは20年ぶりだろうか。三島由紀夫の「暁の寺」は最後の長編小説「豊饒の海」4部作の第3巻。タイのお姫様が登場し、輪廻転生が語られる。中学生の私はこの小説で輪廻転生を知り、深く興味を持った。そして今は、輪廻転生が信じられている国にいる。
あのワット・アルンは一大観光地。団体さんの行列が夕方でも多く、50バーツ払って中へ入っても欧米人が急な階段を上っている姿を見ると、何だか小説を思い出したくなくなった。この寺はとにかく形が良い。チャオプラヤー河から見ても、渡し舟を下りてみても、実にいい。暁の寺ではあるが、夕暮れ時は特によい。うっとりと見惚れていた。帰りはバスで夢見心地、眠りこけた。