何もない自由貿易区
実は今日国境を訪問したのは、単なる旅ではなかった。今回の調査の目玉の一つ、モンゴル-ロシア国境における自由貿易区の発展状況を視察することにあったのだが、現場に案内されて驚いた。10年前から計画されているこの貿易区、殆ど何もなかった。プレハブの事務所に計画のパネルなどがあったが、何ともむなしい。
なぜこのような状態なのか。このプロジェクトを担当していたのは20代の若者2人。『毎年予算は付くが、お金が届いたためしがない。当初基礎工事で地中のパイプなど水工事は行ったが、そこまでだ』と本人たちも残念そうだ。
外に出ると、骨組みだけ出来た倉庫が一つ、ポツンと建っていた。これは今の貿易区を象徴していた。多少の従業員がいるとのことだったが、昼休みで誰もいない。何とも寂しい。ここは産物のないモンゴルが、世界各国から物資を集め、貿易を進めるはずの場所だったが、計画倒れ。モンゴルの現状がよくわかるプロジェクトとなっている。
因みに貿易区には柵が設けられている。これはロシアとの国境を示すもの。『ロシアはどんどんモンゴルの土地に侵入してきている。何も対抗しないと、奴らは更に進んでくる』、昔は気が付くと、ロシアの柵が前進してきたそうだ。確かに広大な草原、全てを守ることは人口の少ないモンゴルにはできない。またロシアは入植と言う形で、ロシア人をどんどんこの地に放り込み、彼らが国境を動かしていることもあるようだ。島国日本から来たものには、全く想像もできないような、領土争いがそこにある。
またモンゴルには精霊信仰がある。この大地にも祭られている場所があった。一見無造作に置かれている石、布で周囲を囲われている。そして驚くべきことに、捧げられているのはお茶の葉。日本ではレンガ茶と呼ばれるブロック状の磚茶。これはモンゴルの人々が日常飲むミルクティの原料だ。中国茶は仏教との兼ね合いが強いが、ここでは精霊。
ローカルランチ ロシアから卵
昼ごはんはかなりローカルな店に入った。まんとうと羊スープ、これは私が望んだものだったので満足。この辺に店はあまりなく、国境を越えてロシアから来たトラックなどが引っ切り無しに前を通り、または停車していく。レストランの隣はちょっとした何でも屋。トラックの運転手が下りてきて、水などを買っている。
運転手に何を運んでいるのか聞いてみると『卵』との答え。材木などを積んだ車もあるが、食品を運んでいる車も当然ある。卵はモンゴルでも何とか生み出せないのだろうか。ロシアでも条件は変わらない筈だから。大量生産した方が安い、と言う資本主義の原理だろうか。こうした輸入形態がモンゴルの伝統だとよくわかる。