総延長250キロ、地下3階、ベトナム戦争時には1万6000人のゲリラが生活していたというクチのトンネル。現在は観光用に拡張・整備され、多くの旅行者が訪れる。
「以前に、このトンネルの中で迷子になったアメリカ人観光客がいたんですよ」
とトンネルガイドのコア君がいう。その男性は、数日後、救出されたそうだが、そのときは意識が混濁しており、詳しい事情は分からずじまいだったという。
観光で体験できるのは、最長でも150メートルと、トンネルのごくごく一部に過ぎない。それでも中腰にもなれないほどの狭さ、息苦しさ、そして蒸し暑さに、途中で逃げ出したくなるほどだ。正常な意識を失ったとしても不思議ではない。
ふと思いついて、彼自身、トンネルの中で生まれたというコア君に尋ねてみた。
「中で迷子になって、そのまま見つからずに死んでしまった人も、もしかしているんじゃ…?」
「そんなことのないように、確認はしていますけどね…」
そう口を濁した彼の口元には、ニヒルな笑いが浮かんでいた。
【アクセス】
ホーチミン市中心部から車で約1時間半。半日~1日のツアーが催行されている。