11. 凍頂山を登る
翌朝は早く目覚めた。昨晩の蛍の興奮であろうか、または教会に戻ってから聞いたU君の台湾茶への道の話のせいであろうか。本日は当初U君が茶作りの入る可能性があって、同行するつもりだったが、延期となりすることはない。
先ずは朝飯。小雨の中、バイクに跨り、U君行きつけの食堂へ。ここでチキンバーガーと豆乳を取る。このチキンバーガーがまたなかなかイケていた。店の夫婦はU君に「帰ってきたのか」と喜ばしそうに声を掛けていた。U君は地元に受け入れられている。
そして雨も上がったので、凍頂山を登ってみることにした。バイクで行けばすぐだと言われたが、折角なので歩いて登る。標高は800mないとのことで、高を括っていたが、以外ときつい上りもある。陽も高くなり、暑さがじわじわやって来た。周囲はビンロウ樹が高く聳えており、茶畑は見えない。歩くこと40分、ようやく頂上付近に出る。村があり、茶畑が見える。それにしても広くはない。凍頂烏龍茶は大いに出回っているのに、一体茶葉はどこから来るのだろうか。Uさんがバイクで迎えに来た。
老樹はあるのだろうかとの私に質問にUさんはいとも簡単に「その辺で聞いてみましょう」という。すぐにバイクを走らせ、ある農家のビニールハウスを覗く。おじさんが作業中、そこへ声を掛け、何と案内を乞う。おじさんもすぐに対応してくれ、歩いて茶畑の中へ。「ここだ」と言われたその場所には、読めなくなった看板があり、切り株のある老樹が根を張っていた。しかし言われなければこれが100年前の木とは思わない。
そして向こうを眺めると、ちょうど茶摘みが行われていた。興味深くそちらに向かう。おじさんがお婆さんに声を掛ける。何と80歳で茶を摘んでいる。しかもその手のスピードの速いこと。少し習ったぐらいではとても出来ない。と思っているとおじさんもやり始めた。これまた手馴れている。「この辺の人間は子供の頃、好きでも嫌いでも茶摘みをやったもんだ」と懐かしそうにしている。
実はこのおじさん、農家が嫌で都市の銀行に勤めていたらしい。ところが数年前、都市生活に疲れて、地元に戻り農家に復帰した。そう思うと、先程の茶摘みはとても感慨深いものがある。人間は収入を求めて都会へ出るが、いつか自然に帰りたくなるもの。是非写真に納めたいとカメラを向けるとなぜか電池切れとなり、貴重な写真を撮りそこなった。