その後石さんは話し続けた。いつ切り上げたらよいのか、そしてその民宿へはどうやって行くのか、気に掛かる。すると石さんの向こうに一人の男性が座った。そして何をするでもなく、手持無沙汰にしている。おかしい?ようやく石さんは「民宿行くか」と聞く。ハイ、と答えるとその男性が私のリュックを掴んで立ち上がった。あれ、何と民宿から迎えが来ていたのだ。バンに乗り名残惜しいが石さんとお別れする。
若者は民宿を手伝っているという。本業を聞くと「昨年地元の国立大学の大学院を卒業した。専攻は中国史。」ということで俄然話が弾む。しかしなぜ院卒で実家の手伝い?「実は台湾の田舎では就職先がない。昨年警察官の試験に落ちたし。」え、大学院を出て警察官?「そう、警察官は残業もあり手当がいいんだ」え、でも「勿論普通の公務員はもっといいが、今や1000人受けて受かるのは10人程度。警察官なら100人で7人だ。」そうなのか、そんなに厳しいのか。
と言う会話の間にも、車は埔里市内から山へ向けて上っていく。民宿が山の上のあるのか、それと途轍もなく不便な場所にあるのか。考え始めたころ、車が如何にも別荘に入り口と言う雰囲気の中へ入る。目に入ってきたのはまさに別荘。こんな立派な所に泊まるのか。料金すら聞いていない。
3つある建物のうち、母屋と思われるところへ案内される。おしゃれな喫茶コーナーがあり、向こうは崖。山から下が一望できる。部屋はここから階段を降りる。中に入るとおしゃれな部屋、そう女性が好みそうなペンション風。窓からは同じく風景が一望できる。何と贅沢な。
するとさっきの若者が「蛍見に行くか」と聞く。蛍は鹿谷で十分見たのだが、面白そうなので着いていく。他に台湾人とシンガポール人の団体が一緒。大勢でまだ陽も落ち切らないうちに出発。蛍見学の場所には既に警官まで出ており、先日とは打って変わった様子。蛍がチラチラ見えたが、それで十分。
「食事はどうする」と聞かれたので何でもよいと答える。何と彼と妹が一緒に食事をしてくれた。しかも場所はイタリアンレストラン。ちょっと隠れ家風に、さり気無くあるそのレストランはおしゃれ。味もまあまあで、面白い。
実はあの民宿は8年前に彼らの両親が購入、台南から引っ越してきたのだという。地元の人間ではなかったのだ。そしてなぜかお父さんは引退し?妹が責任者であるという。それで飾りが女性らしいのか?