豆腐を満喫した後、Hさんが「夜のお散歩でもしますか」、と聞く。もうなすがままである。夜8時台、車で猫空へ上がる。猫空とはなかなか奇妙な名前であるが、観光茶園がいくつもある台北市の寛ぎスペースである。景色を売り物にしているが、4月とはいえ、今日は結構冷える。ミニバスが通るが、客は殆ど乗っていない。ロープウェーも開通しており、寒空の中を動いている。
Hさん行きつけの店へ行く。「六季香茶坊」(http://www.taipeinavi.com/food/254/)と書かれた看板の所を上がる。上は前面が露店になっており、奥に建屋がある。人は誰もいない。Hさんが奥の方に入っていき、声を掛けるが、返事がない。こんな時間にお客が来るとは想定外であろう。
ようやく横の建物から返事がある。どうやら茶作りの最中であるらしい。ご主人が出て来た。張さん、独特の雰囲気を持つ人物である。露天の一番前、景色の良い所に陣取る。Hさんは半袖シャツ1枚でかなり寒そう。張さんも上に羽織るものを出して着ている。
ここからの眺めはかなり良い。台北市が一望できる。張さんがお茶を淹れようとしたその瞬間、市内で大音響の花火が上がった。一体どうしたんだ?考えてみれば本日は台湾花の博覧会最終日、そのイベントの一環で花火が登場したのだろう。偶然とはいえ、不思議な気分となる。
張さんは作ったばかりの木柵鉄観音を淹れてくれた。中国の鉄観音はどんどん緑茶化して軽くなっており、香りがあればよい、といった印象が拭えないが、こちらは実に濃厚な味。私の好きなタイプであり、恐らくは本来の鉄観音の味を残しているのであろう。
次に冷凍茶が出される。これは鉄観音の茶葉を冷凍して保存。名前だけ聞くとアイスティーかと思ってしまうが、実は室内萎凋と言う工程の後、茶葉を加熱殺菌し、仕上げの乾燥火入れをしないので、ビタミンが凝縮されていると言う。
茶葉は緑であるが、味は木柵鉄観音。なかなか面白い。こんな所にも木柵の茶農家の探究心が感じられる。当然この辺りの茶農家も歴史が古く、1870年代以降茶作りが始まっている。しかし張さん達にとっては、歴史より今日、今日より明日、といった感じで、今晩も茶作りで徹夜らしい。いい鉄観音を作って欲しい。
夜も更けて来て、茶作りの邪魔にもなると言うことで退散した。次回は茶葉料理でも食べながら、ゆっくりと話を聞いてみたい。