「お風呂の椅子みたいに低い椅子、これはいったいなんですか?」
東京からやって来た客人を、ホーチミン市きっての人気ローカル食堂に案内したときの第一声である。
この店、ベトナム版ぜんざいとも言われる「チェー」というスイーツの有名店。にも関わらず店名はなく、住所である「ブイチースアン通り111番地」が店名代わりなっている。約20種類のチェーが食べられ、お値段はグラス1杯30円程度とお手頃。しかし、あなどってはいけない。この店のオーナーは、このチェーで「御殿」を建ててしまったといわれるほどなのだ。チェーと並んで人気なのが、ソイと呼ばれる「おこわ」。小生がこの店を訪れるのは、チェーではなく、このソイが目的である。
などという説明は、ガイドブックに任せるとして、椅子である。そう、長く住んでいるとすっかり見慣れてしまい疑問を感じないのだが、まるでお風呂の椅子みたいに低い椅子に座ってみんな食事をしている情景は、確かにヘン。しかも、この店だけではない。このように低い椅子のお店はいっぱいあるのだ。
「どうして、こんな低い椅子なんですか?」
と客人。私も、知り合いのベトナム人に尋ねたことがあるが、明確な答が返ってきたことがない。この店の人の答は、
「そうねえ、狭い場所を有効に利用するためね」
というもの。確かにこの店は狭いので、理屈は通っているが、広々したスペースのお店で低い椅子を使っているところもあったから、この答をすべてに適用するわけにはいかない。
そういう話をお店の人にしていると、隣でソイを食べていたオジさんが一言、ぼそっとつぶやいた。
「低い椅子のほうが座りやすいのに、どうして、わざわざ高い椅子に座らにゃいかんのや?」
これには一本取られた。確かに、我々日本人からすれば「どうしてこんな低い椅子に?」と思うが、低い椅子が当たり前の人たちからすれば、「どうして高い椅子に?」となってしまうのだろう。
そういうわけで、今週の「街角笑ケース」殿堂入りは「お風呂の椅子に座って食事を」。お後がよろしいようで…。